日本の伝統芸能「落語」を嗜むうえで知っておきたい名作・定番演目を紹介!
今回は、誰しもタイトルは聞いたことがあるであろう定番演目『目黒のさんま』(めぐろのさんま)について、あらすじや登場人物、楽しむための豆知識をわかりやすく解説します。
記事の最後には、試しに聴いてみることのできるサービスも紹介していますので、ぜひご覧ください。
すぐに『目黒のさんま』を聴きたい方はすぐに聴けるYouTubeや音楽配信サービスをどうぞ
『目黒のさんま』(めぐろのさんま)とは?
『目黒のさんま(めぐろのさんま)』は世間知らずな殿様と忖度しまくる家来たちのドタバタを描いた有名な滑稽噺です。
外出先で食べたさんまの味が忘れられない殿様と、そんな殿様に振り回される家来たちのやり取りがおもしろい、初心者の方にもおすすめの演目です。
舞台、登場人物、あらすじ
≪舞台≫
・外出先の目黒
・知り合い(親族)の大名屋敷
≪主な登場人物≫
・殿様
・ご家来衆
・大名屋敷の料理人
≪あらすじ≫
とある殿様が、馬に乗って目黒まで遠乗りに出かける。昼どき、腹を空かせた殿様のもとに、何かうまそうな匂いが漂ってくる。「この匂いは何か」と尋ねる殿様に、家来衆は「さんまを焼いている匂いですが、下魚なので殿様が口にするようなものではない」と答える。しかし空腹の殿様はそのさんまをもらってくるように命じ、家来衆はしぶしぶ近所の農家から焼いたさんまをもらってくる。さんまを食べた殿様は、その余りのうまさに感動する。
屋敷に戻ってからも、さんまのうまさが忘れらない殿様。ある日、知り合いの大名の家に招かれた際、なんでも好きな食べ物を用意すると言われ、さんまを所望する。まさか殿様からさんまを求められるとは思っていなかった料理人たちは、急いで日本橋の魚河岸へ行ってさんまを仕入れてくる。
しかし、いざ調理を進めていくと、脂が多すぎてお身体に障るといけないと言って、さんまを蒸してすっかり脂を落としてしまう。小骨がのどに刺さるといけないと言って、骨を一本一本抜いて、身をぐずぐずにしてしまう。崩れた身をなんとか団子状にしてあんかけをかけ、お椀として殿様へ出す。殿様は、目黒で食べたさんまとのあまりの違いにがっかりし、料理を出した者に尋ねる。
≪オチ≫
殿様 「このさんまは、どこで買い求めたものだ?」
料理人 「日本橋の魚河岸で、一級品を仕入れてまいりました。」
殿様 「それはいかん。さんまはやっぱり目黒に限る」(目黒は海とは無縁の地域)
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『目黒のさんま』の聴きどころ
『目黒のさんま』は、東京都目黒区で毎年開催されている「目黒のさんま祭り」の由来になった噺で、寄席においては秋の定番演目のひとつとなっています。
地噺(じばなし)と呼ばれる、会話よりも状況説明が多い噺で、所々にくすぐりを入れて笑わせていくという噺家の技量が求められる演目でもあります。
昭和の大名人 三代目三遊亭金馬が得意とした演目としても有名です。
洋の東西を問わず、世の中のことを知らない偉い人を笑う、という構成の話は多くあります。
江戸の町に住む庶民は、食えないとは言わないまでもそれなりに厳しい生活を送っていました。
そんな彼らが、豊かな生活を送っている人の無知を軽く笑って留飲を下げる、という意味で、『目黒のさんま』は広く庶民に受け入れられたものと思われます。
『目黒のさんま』には、本編とセットで語られる定番の枕があり、その中にも様々な殿様やお姫様が登場します。
枕の冒頭では、「カタカナのトの字に線の引きようで、“上”になったり“下”になったり」というフレーズが紹介されることもあります。
線が引かれているせいで、上の人からは庶民の生活は見えないし、庶民には大名のことはわからない、ということを示した言葉で、うまいことを言っているなぁと思わされるフレーズです。
一方で、この噺に登場する殿様は、単なる馬鹿でもない、というところも面白いところです。
当時は「下魚」と呼ばれ庶民の食べ物であったさんまを食べ、何の先入観もなく「うまい!」と言い切るところは、素朴で純粋な一面があるといえます。
また、「さんまを食べたことはご内密に。わたくしどもが腹を切らねばならなくなるので」と家来に言われれば、もう一度食べたいという気持ちを何とか押し殺して黙って生活する。
そういった意味で、色々と騒動を巻き起こしながらもなんだか憎めないキャラクターとして殿様を描いており、最後まで気持ちよく聴ける噺となっています。
もうひとつの聴きどころは、目黒の野原で殿様がさんまを食べる場面。
近所の農家が焼いていたさんまは、串も網も使わずに炭の中にさんまを突っ込んで焼く「隠亡(おんぼう)焼き」と呼ばれる調理法。
真っ黒に焦げて脂がしたたる旬のさんまの様子を臨場感たっぷりに紹介し、それを夢中でほおばる殿様の姿を演じて聴き手の想像力をかきたてるこの場面は、落語家の腕の見せ所といえます。
オチにもつながってくる点ですが、庶民的に無造作に焼いたさんまは絶品で、丁寧に調理しすぎたさんまは不味い、というのもなんだかおもしろいですね。
楽しむための豆知識
『目黒のさんま』をより楽しむため、噺の中に出てくる言葉をいくつか解説します。
- 目黒
当時の目黒は、現在の馬込や世田谷区全域、狛江市あたりまでを含む広い範囲を指していたと言われます。
当時複数あった徳川将軍家の鷹狩り場のひとつも目黒にあり、そのことから、噺に登場する殿様を徳川吉宗や徳川家光と紹介する演者もいます。 - 殿様が食べたさんまはどこのもの?
オチのおかしみにもつながる前提として、目黒には海はありません。
それならば、殿様が農家から譲ってもらって食べたさんまはどこから入手したものなのか?というのが議論になることがあります。
目黒の農家が海沿いの地域へ行商にいって、その帰りにさんまを買って帰ってきた、というのがひとつの有力な説です。
芝浜の雑魚場で新鮮なものを買ってきたという説、日本橋の魚河岸で塩漬けのさんまと野菜を物々交換してきたという説。
そのほかにも、目黒川に遡上したサンマを農民が捕獲したものではないか、と考察している人もいます。
すぐに聴けるYouTubeや音楽配信サービス
今すぐ『目黒のさんま』を聴いてみたい!という方のために、YouTubeで聴けるもの、音楽配信サービスで聴けるものを紹介します。
特にAmazon Music Unlimitedので聴ける5分落語シリーズ、古典落語の本格派 十代目金原亭馬生の一席はとてもおすすめなので、ぜひチェックしてみてください。
YouTube 三遊亭金朝の一席
四代目三遊亭金朝さんのYouTubeチャンネルより。
『目黒のさんま』とセットになっている定番の枕をたっぷりと聴ける一席ですので、ぜひ聴いてみてください。
Amazon Music Unlimited 5分落語シリーズ
Amazon Music Unlimitedでは、人気コンテンツ『5分落語』シリーズの中で『目黒のさんま』を聴くことができます。
『5分落語』シリーズは、老若男女誰もが“5分”で落語を楽しめる、落語ビギナー向けの決定版コンテンツです。「目黒のさんま」のほかにも、「寿限無」「まんじゅう怖い」「初天神」「猫の皿」など、多くの定番演目が収録されています。
Amazon Music Unlimited 十代目金原亭馬生の一席
Amazon Music Unlimitedでは、『金原亭馬生 十八番名演集』の中で『目黒のさんま』を聴くことができます。
昭和の名人といわれた五代目古今亭志ん生の長男であり、女優の池波志乃さんの父親でもある十代目金原亭馬生。
古典落語の正統派であり、ゆるやかでありながらリズムの良い語り口で、大勢のファンを獲得した名落語家です。
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今回は定番演目『目黒のさんま』について解説しました。
わかった気になっていただけましたでしょうか?
本記事で興味を持っていただけた方は、ぜひ奥深い「落語の世界」に足を踏み入れてみてください。
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