日本の伝統芸能「落語」を嗜むうえで知っておきたい名作・定番演目を紹介!
今回は、初心者から愛好家まで誰でも楽しめる定番演目『化け物使い』(ばけものつかい)について、あらすじや登場人物、楽しむための豆知識をわかりやすく解説します。
記事の最後には、試しに聴いてみるためのサービスも紹介していますので、ぜひご覧ください。
すぐに『化け物使い』を聴きたい方はすぐに聴けるYouTubeや音楽配信サービスをどうぞ
『化け物使い』(ばけものつかい)とは?
『化け物使い(ばけものつかい)』は「人使いの荒い人」をテーマにした笑い噺です。
とある一人暮らしのご隠居は、たびたび使用人を紹介してもらっているが、人使いが荒すぎて誰も彼も3日ともたない。
とうとう使用人が来なくなったあとは、引越し先で出てきた化け物・妖怪たちまであごで遣いはじめる・・・。
全編通じて笑いどころが多く、噺の長さも中くらいの噺で、初心者から玄人まで幅広く楽しむことのできるポップな演目といえます。
舞台、登場人物、あらすじ
≪舞台≫
・ご隠居の家
・引越し先の化け物屋敷
≪主な登場人物≫
・ご隠居
・杢助(もくすけ)
・化け物たち
・タヌキ
≪あらすじ≫
本所の割下水に住む一人暮らしのご隠居は、人使いが荒いことで有名。千束屋(ちづかや)という桂庵から何人も使用人を紹介されてきたが、あまりの人使いの荒さに、誰も彼も3日ともたずに暇(いとま)を願い出てしまう。
そんな中、千束屋からの紹介で杢助(もくすけ)という男がやってくる。ご隠居は、「まぁ今日は初日だからゆっくりしててくれ」と言いながら、次から次に仕事を言いつけ、挙句の果てには品川まで手紙を届けて、そのついでに千住まで回ってきてほしいなどと言う。噂に違わぬ人使いの荒さであるが、杢助は辛抱強く仕事をこなし、そのままご隠居の家の使用人として勤め続ける。
3年が経ったある日、杢助が突然暇を願い出る。理由を聞くと、ご隠居がとある家に引っ越そうとしていることが原因であるという。そこは近所で「化け物屋敷」と噂される家で、自分はご隠居の人使いの荒さは辛抱できるが、化け物が出るような家には1日だっていられない。引越しする日まで働くが、それ以降は別の使用人を探してほしいとのことだった。
引っ越し当日、杢助は一人で引っ越し作業を済ませ、掃除・食事の支度まで万事片付けたうえで、日が沈まぬうちに逃げるように辞めていった。
その晩、食事を済ませたご隠居が一人で読み物をしていると、なにやら背筋がゾクゾクとして様子がおかしい。ふと見ると、障子の向こうに何かの影が見える。隠居が呼び込んでみると、それは一つ目小僧だった。ご隠居は驚くでもなく、「せっかく出てきたんだから、食事の片付けをしてくれ」と一つ目小僧に言い付ける。洗い物をさせ、茶碗を片付けさせ、水がはねたからと床を拭かせる。水瓶の水を足したら布団を敷いてくれと指図し、最後には肩を叩かせながら、明日はもっと早い時間に来てくれなどと言う始末。
翌日の夜は、大入道が出てきた。一つ目小僧と同じように食事の片付けをさせ、一つ目小僧より筋が良いとご満悦。大きくて力が強いからと、屋根の上の草取りをさせ、庭の石灯篭を直させる。最後には、お前は大きくて少し邪魔になるから10日に一回でいい。それ以外の時は一つ目小僧に来させるように、と大入道に言い聞かせる。
次の晩には、のっぺらぼうの女性が来た。女がいると華やいでいいなどと言いながら、着物の綻びを直させる。明日からも基本的には貴女が来てくれるといい。力仕事はたまに大入道に来てもらって片付けよう・・・。
その次の晩、今日は誰が来るのかと待っていると、障子の向こうから大きなタヌキが現れた。この家の化け物は、このタヌキが化けて出ていたものだと言う。
タヌキは涙ぐみながら口を開く・・。
≪オチ≫
タヌキ 「お暇を頂きたいのですが・・。こう化け物使いが荒いんじゃ、辛抱できかねます。」
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『化け物使い』の聴きどころ
今も昔も「人使いの荒い人」というのは存在しますが、『化け物使い』に出てくるご隠居の人使いの荒さは常軌を逸しています。
何度使用人を紹介してもらっても、あまりの人使いの荒さに3日ともたずに辞めてしまいます。
徐々に使用人の引受け手がいなくなってきた中でやってきた杢助は、初日からとんでもない量の仕事を言い付けられます。
初日は骨休めだからゆっくりしてくれなどと言いながら、薪割りに炭切り、縁の下と塀の掃除、庭の草むしりにドブ掃除、左隣の家の掃除、左をやって右をやらないわけにはいかないから右隣りの家の掃除と、次から次に仕事を言い付けてきます。
挙句の果てには、品川に行ったついでに千住に寄ってきてくれなどと言い出します。(ご存じの通り、品川と千住は東京の南と北なので、まったく“ついで”になっていません)
それでも人並外れて辛抱強い男である杢助は長くご隠居の家に勤めますが、化け物屋敷へ引っ越すことを嫌がって辞めてしまいます。
杢助が暇を願い出る際、それまでのご隠居の人使いの荒さに対して悪態をつくシーンは、主人と使用人の立場が入れ替わったような可笑しさと爽快さがあります。
一人で化け物屋敷へ引っ越したご隠居の元に、夜な夜な化け物が姿を現します。
普通であれば異形の化け物の姿に恐れおののくところですが、ご隠居はこの化け物たちまで使用人のように使いはじめます。
あれやこれやと仕事を言い付け、その手際の悪さを叱責しながら、「化け物なら給料もいらないから都合がいい」などと、徹底した人使い(?)の荒さを見せつけます。
化け物たちとしても、脅かすつもりで出てきたはずが、あれこれと口うるさく小言を言われながら家の雑事をやらされる羽目になる。
この場面はほとんどがご隠居のセリフのみで進んでいきますが、その向こうにいる化け物たちの当惑する姿が目に浮かんでくるような、大変可笑しみのあるシーンとなっています。
その後、化け物に扮していたタヌキが出てきて、雇われているわけでもないのに「暇を願い出る」ところでオチとなります。
楽しむための豆知識
『化け物使い』をより楽しむため、背景や噺の中に出てくる言葉をいくつか解説します。
- 桂庵(けいあん)
奉公人や雇い人、芸者などの斡旋業者のことで、現代でいうところの人材派遣会社のようなものです。
商家やある程度余裕のある町民は、店の仕事や家事を手伝ってもらうために使用人を雇うことあり、そういった使用人・奉公人を紹介してくれるよう桂庵に依頼を出しました。
“桂庵”という呼び名は、江戸時代の初期、京橋の医師大和慶庵という人が、縁談や奉公人の紹介を行っていたことに由来するといわれています。 - 江戸時代の化け物(妖怪)たち
人知を超えた力を持つ異形の化け物としての妖怪は、古くは古事記や日本書紀に登場するヤマタノオロチや鬼にまで遡り、平安時代には今昔物語集などに怪異にまつわる話として書き記されました。妖怪の姿かたちが描き表されるようになったのは、鎌倉時代から室町時代に作られた物語絵巻からだと言われています。
江戸時代に入ると、幽霊や妖怪を描いた浮世絵が多数創作されたことから、庶民の間に一種の妖怪ブームが到来しました。
怨念にまみれた「幽霊」よりも、比較的キャラクター性が強い「妖怪」は、恐ろしさばかりではないある種の親しみをもって庶民に受け入れられたのかもしれません。
すぐに聴けるYouTubeや音楽配信サービス
桂三木助や古今亭志ん朝といった大名人も得意とした『化け物使い』。
今すぐ『化け物使い』を聴いてみたい!という方のために、YouTubeで聴けるもの、音楽配信サービスで聴けるものを紹介します。
特にAmazon Music Unlimitedで聴ける桃月庵白酒さんの一席はとてもおすすめなので、ぜひチェックしてみてください。
YouTube 林家錦平の一席
1990年から30年以上に渡り真打ちを務め、古典落語の演目数は200噺を超える林家錦平さんのYouTubeチャンネルより。
『おうち寄席』というシリーズで多くの動画を配信されており、様々な定番演目を楽しめるチャンネルとなっています。
Amazon Music Unlimited 桃月庵白酒の一席
Amazon Music Unlimitedでは、三代目 桃月庵白酒さんの『化け物使い』を聴くことができます。
特にご隠居の演じ方がとても魅力的で、決して悪気があるわけでも過度に偏屈なわけでもないけど自然と人使いが荒くなってしまうご隠居のキャラクターが、一周回って気持ち良くなってくる一席となっています。
Amazon Music Unlimitedは、月額定額制の音楽配信サービスですが、最初の30日間無料でお試しできます。
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今回は定番演目『化け物使い』について解説しました。
わかった気になっていただけましたでしょうか?
本記事で興味を持っていただけた方は、ぜひ奥深い「落語の世界」に足を踏み入れてみてください。