日本の伝統芸能「落語」を嗜むうえで知っておきたい名作・定番演目を紹介!
今回は、聴きごたえ十分な名作古典落語『井戸の茶碗』(いどのちゃわん)について、あらすじや登場人物、楽しむための豆知識をわかりやすく解説します。
記事の最後には、試しに聴いてみるためのサービスも紹介していますので、ぜひご覧ください。
すぐに『井戸の茶碗』を聴きたい方はすぐに聴けるYouTubeや音楽配信サービスをどうぞ
『井戸の茶碗』(いどのちゃわん)とは?
『井戸の茶碗(いどのちゃわん)』は古典落語の演目の中でもとりわけ有名な人情噺です。
登場人物や場面の転換が多く、長めの噺でもあるので、やや中級者向けの演目かもしれません。
ただ個人的には、落語の醍醐味がぎゅっと詰まった噺だと思っているので、初心者の方も含め多くの方に聴いていただきたい演目です。
舞台、登場人物、あらすじ
≪舞台≫
・千代田卜斎の家
・細川の屋敷
≪主な登場人物≫
・屑屋の清兵衛 (くずやのせいべい)
・千代田卜斎 (ちよだぼくさい)
・高木作左衛門 (たかぎさくざえもん)
≪あらすじ≫
屑屋を営む清兵衛は、ある日町を流していると、路地裏から娘に呼び止められる。娘に案内されて裏長屋に入っていくと、娘の父親(千代田卜斎)がおり、とある仏像を引き取ってもらいたいと頼まれる。目利きができない清兵衛は、安く買い叩いては申し訳ないからと断るが、千代田に押し切られる形で古い仏像を200文で引き取る。その際、もし仏像がよそで売れて儲けが出たときには、その半分を千代田にお渡しすると約束する。
清兵衛が仏像を籠に入れて歩いていると、細川屋敷の長屋に住む若い侍・高木佐久左衛門に声をかけられる。高木は仏像を気に入り、300文で買い取る。高木が仏像を磨いていると、台座の下の紙が破れ、中から50両もの小判が出てくる。高木は、自分は仏像を買った覚えはあるが中の50両は買っていないと言い、元の持ち主に返そうと考える。屑屋の名前を知らない高木は、翌日から長屋下を通る屑屋を呼び止めては顔を改める生活を始める。
ようやく清兵衛を見つけた高木は、事情を話したうえで、清兵衛に50両を預ける。清兵衛は50両を持って千代田の家に行き金を手渡そうとするが、千代田は、気づかなかったのは自分の不徳の致すところであり、受け取るいわれはないとして50両の受け取りを拒否する。清兵衛は、何度も高木と千代田の間を行き来するものの、どちらも頑として受け取らない。困り果てた清兵衛は、千代田の長屋の大家に仲介を頼む。大家は「千代田と高木にそれぞれ20両、清兵衛に残りの10両でどうか」と提案する。高木はしぶしぶ了承するも、千代田はこの提案も受け入れようとしない。そんな千代田に大家は、「ただ金を受け取るのが嫌なら、何か品物を高木に渡し、商いという形にしたらどうか」と提案する。さすがの千代田も最後には折れ、父の形見として持っていた茶碗を高木に譲り、ようやく騒動は決着する。
一連の話は間もなく細川家中に広まり、感心した細川の殿様は高木の目通りを許す。高木が一連の騒動について報告し、千代田から譲り受けた茶碗を披露する。その場に居合わせた目利きの者が、これは「井戸の茶碗」という名器だと告げると、殿様はこの茶碗を300両で買い上げる。
300両を手に入れた高木は、これをすべて懐に入れることを良しとせず、清兵衛を呼んで半分の150両を千代田に渡してほしいと依頼する。清兵衛が長屋を訪ねると、案の定千代田はこの金の受け取りを拒否。前回のように何か品物を渡してはどうかと考えるが、150両に見合うような品はない。2人は思案した結果、千代田の娘を高木に嫁がせ、150両はその支度金とすることを思いつく。清兵衛から話を聞いた高木は、この提案を快く受ける。
≪オチ≫
清兵衛 「千代田の娘さんは今は粗末な格好をしているが、磨けば見違えるようになりますよ。」
高木 「いや、磨くのはよそう。また小判が出るといけない。」
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『井戸の茶碗』の聴きどころ
『井戸の茶碗』は、元は講釈・講談の演目であったものを、落語の人情噺として再構成したものです。
主な登場人物全員が正直で実直、最後にはハッピーエンドとなる噺であり、落語家・愛好家双方から人気の高い演目です。
特に、元講釈師であった五代目古今亭志ん生の『井戸の茶碗』は、名演中の名演として語り継がれています。
『井戸の茶碗』は聴きどころの多い噺ですが、何よりも登場人物の誠実さが気持ちいい噺です。
周囲から「正直清兵衛」と呼ばれている屑屋の清兵衛は、お客様に迷惑をかけるかもしれないという理由で、目利きができない商品は取り扱わないという信条を持っています。
そのうえで、千代田の苦しい生活を慮り、仏像を預かったうえで儲けは折半にしようと申し出たりもします。
千代田卜斎は、売ってしまった仏像から出てきたお金をもらうわけにはいかないと、苦しい暮らし向きにありながら、侍としての矜持を見せます。
仏像を買った高木作左衛門は、黙っていれば誰に知られることもなかった50両を、「こんなものを買った覚えはない」と千代田に返そうとします。
登場人物たちの振る舞いには、「武士の本分としての”清貧“の思想」や「商人としての三方よし」、「人の行いはお天道さんが見ている」といった価値観が色濃く反映されており、とても日本的なストーリーであるといえるでしょう。
『井戸の茶碗』は「人情噺」として分類されることが多いですが、噺の端々に笑いどころがちりばめられています。
高木が清兵衛を見つけるために、通りかかる屑屋の顔を次々と改めて悪態をつく場面、お人好しの清兵衛が、お互いにお金を受け取ってくれない千代田と高木の間を行ったり来たりさせられるくだり、殿様が茶碗を300両で買い取ると言い出した時に聴き手の脳裏によぎる嫌な予感などなど。
単なる人情噺にとどまらない可笑しみも『井戸の茶碗』の大きな魅力です。
噺のオチの秀逸さも、この噺の大きな魅力です。
そもそもの騒動の発端が、高木が仏像を磨いたときに出てきた小判であったことに引っ掛けて、磨けばきっと美しくなる千代田の娘を「小判が出るといけないから磨くのはよそう」と言って終わるサゲ。
有名な人情噺『芝浜』の「酒はよそう。また夢になるといけねぇ」に勝るとも劣らない、とんちの効いた落語らしい締めくくりですね。
楽しむための豆知識
『井戸の茶碗』をより楽しむため、噺の中に出てくる言葉をいくつか解説します。
- 屑屋
今で言う「廃品回収業者」。天秤を担いで町を回り、買い取った不用品を商品ごとの専門の問屋へ売って生計を立てていました。
古着、古書や書き損じた紙、錆びたハサミや欠けた包丁といった古金属、割れた古器物など、買い取る商品は様々でした。 - 素読と売卜
浪人として暮らす千代田卜斎は、「昼は子どもに素読を教え、夜は売卜を行っている」と紹介されています。
素読とは、江戸時代の教養のひとつであった「四書」などの漢文書を音読することを指します。
ひとつひとつの言葉の意味を説明するのではなく、先生と生徒がひたすら声に出して読んでいくという素読の訓練が、漢文学習の初歩として位置づけられていました。
売卜とは、報酬を得て占いをすること。千代田は、夜は通りに出て易者として活動していたようです。
- 腹籠りの仏像
高木が、清兵衛から買い取った仏像を「腹籠りの仏像ではないか」と話す場面があります。
内部に一回り小さい仏像や経典を収めてある仏像を指し、大変縁起が良いものとされていました。 - 『文』と『両』
落語を聴くにあたって、お金の単位や金額感はなかなかピンとこないかと思います。
時代により変動はありますが、現在の価値で概ね以下のイメージです。
1両=約8万円
1文=20〜30円
この前提で計算すると、最初に仏像を買い取った300文は約6,000円~9,000円、仏像から出てきた50両は約400万円、殿様が茶碗を買い取った300両は約2,400万円、ということになります。
すぐに聴けるYouTubeや音楽配信サービス
今すぐ『井戸の茶碗』を聴いてみたい!という方のために、YouTubeで聴けるもの、音楽配信サービスで聴けるものを紹介します。
特にAmazon Music Unlimitedで聴ける桂歌丸さんの一席はとてもおすすめなので、ぜひチェックしてみてください。
YouTube 三遊亭遊雀の一席
三遊亭遊雀さんのYouTubeチャンネル「UJK channel」より。
こちらのチャンネルでは、スマホ視聴向けの縦撮りの落語動画を投稿しており、噺家の細かい所作や表情を見ながら落語を楽しむことができます。
Amazon Music Unlimited 桂歌丸の一席
Amazon Music Unlimitedでは、桂歌丸さんの『井戸の茶碗』を聴くことができます。
登場人物の正直さや融通の利かなさが上手く表現されていて、とても聴きごたえのある一席となっています。
Amazon Music Unlimitedは、月額定額制の音楽配信サービスですが、最初の30日間無料でお試しできます。
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今回は定番演目『井戸の茶碗』について解説しました。
わかった気になっていただけましたでしょうか?
本記事で興味を持っていただけた方は、ぜひ奥深い「落語の世界」に足を踏み入れてみてください。
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