【5分で分かる!】『死神』のあらすじから聴きどころまで。試しに聴けるサービスも紹介。

死神

日本の伝統芸能「落語」を嗜むうえで知っておきたい名作・定番演目を紹介!

今回は、米津玄師さんの楽曲のモチーフとしても話題となった定番演目『死神』(しにがみ)について、あらすじや登場人物、楽しむための豆知識をわかりやすく解説します。

記事の最後には、試しに聴いてみるためのサービスも紹介していますので、ぜひご覧ください。

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大人の嗜みの入口として、「わかった気になる」を応援する情報を発信しています。

日本の伝統芸能「落語」。そこには磨き抜かれた知性と、今も昔も変わらない人間の機微が満ち溢れています。

落語を楽しむことは、江戸の文化や価値観を知ること、人間の滑稽さや強かさ(したたかさ)を再確認すること、人を惹きつける物語や話し方とは何だろうと考えてみること、です。

そんな大人の嗜みとしての「はじめての落語」を応援するため、落語に関する基本的な知識やおすすめの名作落語を、初心者の方にもわかりやすく紹介します。

すぐに『死神』を聴きたい方はすぐに聴けるYouTubeや音楽配信サービスをどうぞ

『死神』(しにがみ)とは?

死神とは

死神(しにがみ)』は、とある冴えない男が死神を名乗る老人に出会うところから始まる物語です。

2021年に、米津玄師さんがこの落語演目をモチーフにした曲を発表したことでもとても話題になりました。

滑稽噺の色合いの強い前半の軽妙な笑いと、終盤に行くにつれて浮かび上がる死神の不気味さがクセになる演目です。

舞台、登場人物、あらすじ

死神の概要

≪舞台≫

・とある道端

・とある大店

≪主な登場人物≫

・主人公の男

・死神

・大店の主人、奉公人など

≪あらすじ≫

主人公の男はうだつが上がらず、女房からも悪態をつかれて家を飛び出し、いよいよ自殺でもしてやろうかと考えている。そこに、あばらが浮き出るほど瘦せこけた眼光鋭い老人が現れる。老人は自らを死神だと言い、男はまだ寿命ではないから死ねないという。

死神は、これも何かの縁だと男にある呪文を教え、これを使って医者として商売をすればいいと助言する。重病人の近くには必ず死神がいる。どんな重病人であっても死神が足元に座っていればまだ寿命ではなく、教えた呪文を唱えれば死神は消える。逆に枕元に死神が座っている場合は、もう寿命なので死は避けられず、呪文は唱えてはいけない。そこまで説明すると、死神はどこかへ消えてしまう。

家に帰ってきた男が早速医者の看板を掲げると、すぐにある商店の番頭がやってきて主人を診てほしいという。男が店に行き、主人を見ると足元に死神がいる。男は呪文を唱え、死神を消して病気を治す。主人は男を名医と讃え、多額の報酬を支払う。

この一件で男は名医として評判になり、数々の患者を治した報酬で贅沢な暮らしを始める。しかししばらくすると、男が訪問する病人はみな枕元に死神がいて治すことができず、報酬を受け取れない日々が続く。

そんな折、ある大店から声がかかる。男が大店を訪れて病床の主人を見ると、また枕元に死神がいる。男は歯痒い気持ちを押さえながら、自分には治せないと伝える。しかし、たった一ヶ月でも延命させてくれれば千両の金を払うと言われた男は、欲に目がくらみタブーを犯してしまう。男は店の従業員を集めると、主人の布団の四隅に配置し、死神のスキを突いて布団を180度回転させた。死神の方に主人の足が来た瞬間に呪文を唱えて死神を消し、男は大金を手に入れる。

その帰り道、男は最初に出会った死神に再び声をかけられる。どうしてあんなことをしたんだと死神は男を非難し、とある場所へ連れていく。そこは無数の蝋燭が並ぶ洞窟。死神は、この蝋燭の1つ1つが人の寿命だといい、今にも消えそうなひとつの蝋燭を指さす。間もなく死ぬはずだった主人を助けたために、主人とお前の寿命は入れ替わってしまった。これがお前の寿命だ、と。

何とか助けてほしいと懇願する男に、死神は、新しい蝋燭に上手く火を継ぐことができれば助かる、と告げる。

≪オチ≫

演者により様々なパターンあり。以下は一例。

男が今にも消えそうな蝋燭を持って火を移そうとするが、焦りと恐怖から手が震えてうまくいかない。

死神 「早くしないと消えるよ・・。そんなに震えてたら消えるよ・・・。消える、消える・・・・。ほら、消えた。」


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『死神』の聴きどころ

死神の聴きどころ1

『死神』は、 幕末から明治期にかけて活躍した初代 三遊亭圓朝が、イタリアのオペラ「クリスピーノと死神」からヒントを得て翻案したものであると言われています。

日本でも死をもたらす超常的な存在(妖怪や幽霊、たたりなど)は古くから信じられていますが、「寿命を司る」存在としての死神というものは、どちらかといえば西洋的な世界観が強いものと言えるのかもしれません。

なお、同様の物語はグリム童話の中にも存在しており、圓朝はこちらを基に翻案したとする説もあります。

死神の聴きどころ2

欲をかいた人がその報いを受ける、という筋書きは、洋の東西を問わずに存在する定番のストーリーです。

そんな中でも落語の『死神』は、主人公を破滅へと導く死神の存在感・不気味さが特に際立つ物語であると思います。

この噺に登場する死神は、私たちがよくイメージする「骸骨の顔」「黒いフード」「大きな鎌」といったものとは異なります。

あばら骨が浮き出るほど痩せこけてボロボロの衣類をまとい、毛髪はほとんど抜け落ちているが眼だけは異様にギラギラとした老人、といった説明で表現され、比較的人間に近い風貌でありながらなんともいえない不気味さをもつキャラクターとして描かれています。

前半では主人公を助ける存在として登場しますが、クライマックスに向けて死を司る者としての本性みたいなものが徐々に露わになっていきます。

そんな人間を超えたものとしての死神の鬼気迫る迫力をどこまで表現できるかが、噺家の腕の見せ所と言えるかもしれません。

『死神』は、演者によって様々なオチのパターンがあることも聴きどころのひとつとなっています。

最も定番なのが、恐れと焦りで手が震える主人公が、蝋燭の火を継げずに死んでしまうパターン

柳家小三治は、事前に男が風邪を引いてしまったという伏線を張ったうえで、せっかく継いだ火を男がくしゃみで消してしまうオチを考案しました。

立川談志は、無事に火を移して安心したところで、死神がフッと火を吹き消してしまうブラックな結末を披露したこともあります。

新作落語の名手である立川志の輔も様々なオチを考案しています。その中のひとつとして、無事に火を継いだ男が蝋燭を持って洞窟の出口まで戻り、死神から「もう明るい所だから消したらどうだ」と言われてうっかり自分で火を消してしまうという、間抜けながらとんちの効いたオチがあります。

このようにオチのパターンは多岐にわたり、最後の最後まで楽しみがある演目と言えます。

米津玄師の『死神』

YouTube 米津玄師『死神』より抜粋

人気アーティストの米津玄師さんは、2021年にリリースしたシングル『Pale Blue』のカップリング曲として、この落語演目をモチーフにした『死神』という曲を発表しました。

MVでは、米津さんが落語家さながらに羽織を着て高座に上がるシーンがあり、その座り姿や所作があまりに様になっていると、本職の落語家の方々の間でも大きな話題となりました。

約3分の短い曲ですが、その歌詞には『死神』のストーリーとエッセンスが見事に凝縮されています。

くだらねえ いつになりゃ終わる?

なんか死にてえ気持ちで ブラブラブラ

残念 手前じゃ所在ねえ

アジャラカモクレン テケレッツのパー

(中略)

さあどこからどこまでやればいい

責め苦の果てに覗けるやつがいい

飛んで滑って泣いて喚いた顔が見たい

どうせ俺らの仲間入り

(中略)

ああ 火が消える 夜明けを待たず

ああ 面白くなるところだったのに

引用:米津玄師『死神』

落語に比べると主人公のシニカルさが強い印象がありますが、“ああ、面白くなるところだったのに”という呟きとともに蝋燭の火が消えていく様は、まさに落語の『死神』の世界観といえます。

ちなみに歌詞にある「アジャラカモクレン テケレッツのパー」というのは、死神が主人公に教える呪文であり、基本的には意味のない言葉の羅列です。

死神のストーリーが暗くなりすぎないよう、六代目 三遊亭圓生が、ちょっとした笑いを取るためにつけ加えて定着させたものと言われています。

すぐに聴けるYouTubeや音楽配信サービス

今すぐ『死神』を聴いてみたい!という方のために、YouTubeで聴けるもの、音楽配信サービスで聴けるものを紹介します。

特にAmazon Music Unlimitedで聴ける立川志らくさんの一席はとてもおすすめなので、ぜひチェックしてみてください。

なお、YouTubeの動画について、本ブログでは演者の方が公式チャンネル等で配信している動画のみを紹介するようにしています。

『死神』については、公式チャンネル等で配信されているものが見つからなかったため、Amazon Music Unlimitedの紹介のみとさせていただきます。

Amazon Music Unlimited 立川志らくの一席

出典:Amazon.co.jp

Amazon Music Unlimitedでは、立川志らくさんの『死神』を聴くことができます。

立川流らしく、所々に皮肉の効いた笑いどころを用意している独特なアレンジとなっています。

この一席のオチは立川志らくさんのオリジナルであり、そのクオリティの高さに師匠である立川談志さんも感心し、後に自身の高座でもこのオチを真似して演じたという逸話があります。

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おわりに

今回は定番演目『死神』について解説しました。

わかった気になっていただけましたでしょうか?

本記事で興味を持っていただけた方は、ぜひ奥深い「落語の世界」に足を踏み入れてみてください。

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