日本の伝統芸能「落語」を嗜むうえで知っておきたい名作・定番演目を紹介!
今回は、初心者の方でも楽しみやすい定番演目『子ほめ』(こほめ)について、あらすじや登場人物、楽しむための豆知識をわかりやすく解説します。
記事の最後には、試しに聴いてみることのできるサービスも紹介していますので、ぜひご覧ください。
すぐに『子ほめ』を聴きたい方はすぐに聴けるYouTubeや音楽配信サービスをどうぞ
『子ほめ』(こほめ)とは?
『子ほめ』(こほめ)は天然キャラの八五郎の失敗を描いた滑稽噺です。
物知りなご隠居に教わった「お世辞」を実践してタダ酒にありつこうとするも上手くいかない、八五郎のドタバタを楽しむ初心者の方にもわかりやすいキャッチーな噺となっています。
舞台、登場人物、あらすじ
≪舞台≫
ご隠居の家、路上、子どもが生まれた友人の家
≪主な登場人物≫
・八五郎 (八つぁん)
・ご隠居
・通りすがりの男
・知り合いの番頭
・友人 (竹さん)
・友人の子ども
≪あらすじ≫
八五郎(八つぁん)がご隠居の家を訪ね、家に入るなり酒を飲ませろとねだる。
ご隠居は、「人にごちそうしてほしいならお世辞のひとつも言えなければいけない」と諭す。
例えば相手に年齢を尋ね、お若く見えるとおだてれば喜んで酒の一杯でもおごってもらえると教えられた八五郎。
さっそく道端で通りすがりの人や知り合いの番頭に試してみるが、うまくいかない。
それならばと、もうひとつ教わっていた「子どもの褒め方」を試そうと友人(竹さん)の家を訪ねる。
子どもを褒める際の決まり文句、「栴檀は双葉より芳し 、蛇は寸にしてその気を呑む」なんて難しい言葉を覚えられるわけもなく、また失敗。
八五郎は、最後の手段として赤ん坊の年齢を尋ねる・・・。
≪オチ≫
様々なパターンあり。
一例としては以下の通り。
八つぁん 「あなたのお子さん、歳はいくつで?」
友人 「なに言ってんだ!?生まれたばかりなんだから1つに決まってら!」
八つぁん 「1つかい?もっと若く見える。どう見ても“タダ”みてぇだ」
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『子ほめ』の聴きどころ
『子ほめ』の発祥は古く、原話は1623年に作られた『醒酔笑(せいすいしょう)』という作品集にまで遡ります。
この『醒酔笑』の作者は、安楽庵策伝(あんらくあんさくでん)という浄土宗の僧侶で、元々は仏教の教えを滑稽にわかりやすく庶民に伝えるために作られたものであったといいます。
現代まで伝わる古典落語のいくつかはこの『醒酔笑』をルーツとしており、落語における最古典ともいえる文献です。
『子ほめ』は、元々は上方落語の演目であり、三代目三遊亭圓馬によって江戸落語に持ち込まれたと言われています。
この噺の主人公である八五郎(八つぁん)は、様々な古典落語に登場する定番キャラクターのひとりです。
江戸の町の長屋の住人として登場する、あけすけでさっぱりとした性格、時におっちょこちょいな面を見せるキャラクターです。
噺によって多少の変化はありますが、「喧嘩っ早い」「酒好き」「腕のいい大工や植木屋」といった特徴を付加されることが多い人物です。
同じく庶民代表のキャラクターである、能天気な熊五郎(熊さん)と並んで、「能天熊にがらっ八」と紹介されることもあります。
『子ほめ』は、あけすけで大雑把な性格の八五郎が、ご隠居から教わったお世辞を駆使してなんとかタダ酒にありつこうとするも失敗する、という噺です。
人から教わった言葉や行動を、その場の状況や相手がどうであるかなどはお構いなしにそのまま繰り返してしまって失敗する。これは落語によく見られる笑いのパターンで、「オウムがえし噺」と分類されたりもします。
例えば、「45歳の人には、どう見ても厄そこそこ(男性の厄年42歳のこと)と言えば喜ばれる」と教えられれば、40歳の人を捕まえて「厄そこそこ」といって怒らせてしまう、といった具合です。
一方で、すべてを教えられた通りできるかと言えばそうでもなく、難しいフレーズは全然覚えきれずにトンチンカンなことを言ってしまう、という場面もあります。
子どもを褒めて親を喜ばせるには「長命の相がある」と言えばいいと教わったはずが、長命丸(江戸時代の精力剤の名称)がなんとかかんとか、などと言ってしまう始末。
このように「オウム返し」は、前半にあったやりとりが布石となって後半の笑いにつながる、という「フリとオチ」がわかりやすい噺といえるでしょう。
『子ほめ』は、定番演目で様々な落語家が演じてきたこともあり、細部のアレンジが多く生み出されている噺でもあります。
少しのアレンジで八五郎の性格が違って見えたり、笑いどころが変わってきたりします。
「この落語家はどんな話し方をするのだろう」という楽しみがあるので、定番でありながら飽きのこない演目であるといえます。
また、オチのパターンも多種多様です。
代表的なものとしては、生まれたばかりの友人の子どもに、「若く見える」とお世辞を言う流れでオチにつながります。
最も定番なのは、噺の冒頭に出てきた「タダの酒」というフレーズにひっかけた「どう見ても”タダ“みたいだ」というオチ。
これに対し、江戸時代の年齢の数え方(生まれたときに1歳)を前提とするとわかりにくい、という配慮からオチをアレンジしているパターンもあります。
「今朝生まれたばかり」という友人に対し、「どう見ても“明後日”みたいだ」と訳の分からないことを言ってみたり、「今日でお七夜」といわれたのに対し、「どう見ても”三日坊主”だ」と返すパターンなどなど。
「この落語家はどうやってオトすんだろう・・?」という楽しみがあり、最後のさいごまで楽しめる噺といえるでしょう。
(個人的には冒頭のセリフにひっかけた“タダ”のパターンが一番綺麗で好きです)
楽しむための豆知識
『子ほめ』をより楽しむため、噺の中に出てくる言葉をいくつか解説します。
- 灘(なだ)の酒
江戸初期から酒造業が盛んであった灘地域の酒。現在の神戸市灘区よりも広い地域を指し、時代による変遷はあるものの、現在の西宮市から神戸市に至る東西に長い沿岸部一帯を指していたと言われています。上方から江戸に運ばれる良質な酒は「下り酒」と呼ばれ、庶民にとっては貴重な品でした。 - 栴檀(そうだん)は双葉より芳し / 蛇は寸にしてその気を呑む
どちらも、大成する人は幼いうちから才気があふれていることの例え。子供を褒めるときの決まり文句です。 - 江戸時代の年齢の数え方
「数え歳」の時代なので0歳はなく、生まれたときから1歳。現在の「満年齢」のようにそれぞれが誕生日に歳をとるのではなく、数え歳では正月にみんなまとめて年をとることになります。
すぐに聴けるYouTubeや音楽配信サービス
前座噺の定番でもあり、三代目桂春團治、八代目春風亭柳枝、三代目三遊亭金馬などが得意とした演目としても有名な『子ほめ』。
今すぐ『子ほめ』を聴いてみたい!という方のために、YouTubeで聴けるもの、音楽配信サービスで聴けるものを紹介します。
全部で3つ紹介しますが、どれもオチが違っていますので、ぜひ聴き比べて楽しんでみてください。
YouTube 林家はな平の一席
2022年3月に真打ちへ昇進された林家はな平さんの「はじめての落語【林家はな平YouTube公式チャンネル】」より。
「落語初心者の方にもわかりやすく」と語っているはな平さんらしく、とてもポップな聴き心地の落語になっています。
特にこの一席は、枕(本題に入る前の導入)がとても親しみやすい内容で、肩ひじ張らずに自然と噺に入っていけます。
YouTube 桂紋四郎の一席
「上方伝統文化・芸能、そして上方落語を全国でシェアしたい。」をテーマに活動されている桂紋四郎さんのyoutubeチャンネルより。
こちらは上方落語ですので、全編関西弁で演じられています。方言の違いだけでなく、所々に江戸と上方の人間性の違いが滲み出ていて、とても興味深く聴くことができます。
Amazon Music Unlimited 六代目三遊亭圓窓の一席
Amazon Music Unlimitedでは、六代目三遊亭圓窓の『子ほめ』を聴くことができます。
三遊亭圓窓さんは、1969年に真打ち昇進、人気TV番組 笑点の大喜利レギュラーを務めたこともある大御所です。
他のふたつに比べオーソドックスな構成となっており、「定番の子ほめ」を聴きたい方におすすめの一席となっています。(とは言いつつ、所々に味のあるアレンジが施されています)
またこの一席は、本記事で紹介しているものとはまた違った趣深いオチとなっています。
思わず「なるほど」と唸ってしまうオチとなっていますので、ぜひ一度聴いてみてください。
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今回は定番演目『子ほめ』について解説しました。
わかった気になっていただけましたでしょうか?
本記事で興味を持っていただけた方は、ぜひ奥深い「落語の世界」に足を踏み入れてみてください。
以下の記事では、落語を月額定額で楽しめる音楽配信サービスについて、内容や料金を比較して紹介しています。