日本の伝統芸能であり、昔も今も変わらない“人間の可笑しみ”を教えてくれる「落語」。
一見ハードルの高い世界にも思えますが、落語は誰もが持つ「人間のしょうもなさ」をアハハと笑い飛ばすライトでポップな娯楽であり、少しの予備知識さえあればだれでも気軽に楽しめるエンターテイメントです。
今回は、そんな落語を嗜み始めるにあたって知っておきたい「一番最初の基本知識」をわかりやすく紹介します。
そもそも落語とは?
「落語」とは、江戸時代に成立した、伝統的な話芸の一種です。
その大きな特徴としては以下が挙げられます。
- 「枕」「本題」「オチ」で構成されている
- ひとりの話し手が、語りと身振り手振りのみで物語を進める
ひとりの人間が話すだけ、という意味ではとてもシンプルな演芸ですが、だからこそ聴き手を惹き込み楽しませるため、話し手(落語家)には高い技量が必要となります。
「枕」「本題」「オチ」
落語は大きく分けると3つのパートに分かれています。
・枕(まくら)
落語家が登場して最初に話す、本題に繋げるための前段・導入の部分。
落語家の自己紹介や時事ネタなどの軽い話題で客の緊張をほぐしながら、その日の客層を見極め、どのような噺がウケるかを探る段階ともいわれます。
また、『時そば』の枕はコレ、『芝浜』の枕ならコレ、というように、演目に紐づく決まった枕があることもあり、噺の背景となる江戸の風習を説明したり、オチにつながる伏線を張ったりもします。
例:二八そばというのは、2かける8の16文でそばを食わせたということに由来する言葉のようで・・・など
・本題
メインの物語であり、いわゆる落語の「演目」にあたる部分。
大部分が登場人物のセリフのやり取りで進んでいくため、ひとりの落語家が老若男女さまざまなキャラクターを演じ分けながら噺を進めていきます。
噺の大筋は決まっていますが、落語家によって細部のアレンジが異なったり、登場人物に独自の解釈を加えたりすることもあり、そのあたりも落語の楽しみのひとつとなっています。
・オチ
物語の結末であり、噺を締めくくる洒落や粋なひとことの部分。
落語家によって異なるオチをつける噺もあり、『死神』や『子ほめ』などは、様々なオチのパターンが楽しめる演目として有名です。
枕からはじまり本題を経てオチで終わる、というのが、落語の基本的な流れとなっています。
上方落語と江戸落語
落語は、その発祥と発展の地域により、大きく「上方落語」と「江戸落語」の2つに分けられます。
順序でいえば、まず元禄時代ころに「上方落語」が起こり、それが江戸に伝わり「江戸落語」として発展した、という流れになります。
・上方落語
商人の町として発展していた京都、大阪で生まれた「上方落語」。
発祥当時、大道芸のように路上で披露されることが多かったことから、通行人の足を止めるため楽器演奏を用いた派手な演出が行われていました。現代においても上方落語では、太鼓や三味線を用いた賑やかな演出が行われる点が特徴です。
また、高座の上に「見台」と呼ばれる小さい机が置かれている点も、江戸落語にはない特徴です。
・江戸落語
上方で生まれた落語が江戸に伝わり、独自の発展を遂げたのが「江戸落語」です。
江戸落語は、江戸の町に暮らす武士に向けた「お座敷芸」として発展を遂げたという特徴があり、基本的には上方落語のような派手な演出はありません。
江戸落語においても、落語家が高座に上がる際に出囃子として三味線や太鼓を鳴らすことが一般的ですが、これは1900年代以降に上方落語からの影響を受けて広まったものです。
上方落語にはない江戸落語の特徴としては、前座、二ツ目、真打の階級制度が挙げられます。
江戸落語における階級制度については、こちらの記事で解説しています。
落とし噺と人情噺
落語の演目は、大きく「落とし噺」と「人情噺」の2つに分けられます。
これは、厳密に定義が決まっているというよりは、噺の内容の傾向として大きく2つの種類がある、といった程度の緩い分類だと思ってください。
・落とし噺
登場人物の失敗や奇妙な行動を描いた、可笑しみを重視した噺。
オチにも種類があり、いわゆる“ダジャレ”で締める「地口オチ」、意味が分かると面白い「考えオチ」、結末で立場や物事が逆転する「逆さオチ」など、様々なパターンがあります。
・人情噺
夫婦や親子などの情愛や絆を描いた噺。
様々な人間模様を描いたストーリー性の高い長編ものが多く、随所でクスリとした笑いを挟みながらも、全体としてはしみじみと聴かせるような噺です。
代表的な人情噺としては、「芝浜」や「井戸の茶碗」などが挙げられます。
古典落語と新作落語
落語として披露される演目には、大きく分けて「古典落語」と「新作落語(創作落語)」があります。
・古典落語
江戸から明治の時代に作られ、現代まで伝えられている演目。ほとんどが作者不詳となっています。
古典落語の演目の総数は、諸説ありますが約300程度と言われています。江戸時代から現代に至るまで多くの落語家により継承されてくる中で、噺のディテールが練り上げられたり、新たな解釈に基づいてアレンジが施されたりを繰り返しています。
そういった意味で古典落語は、“古典”でありながら、絶えず“進化”を続けているものとも言えます。
・新作落語
新作落語は創作落語とも呼ばれ、現代の落語家が創作したオリジナルの演目です。
物語の舞台は現代の日本社会を描いたものが多いですが、特に制限はなく、近未来を描いたSFやファンタジーなど様々な噺があります。
落語家の中にも、古典落語にこだわる方もいれば、精力的に新作落語を生み出している方もいらっしゃいます。TV番組でもおなじみの春風亭昇太や立川志の輔などは、新作落語の名手として知られています。
先ほど紹介した古典落語も、演目が作られた当時は新作落語であったともいえ、いま創られている新作落語が、いつか古典落語と呼ばれる日が来るのかもしれません。
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落語のおもしろさとは?
ここまで、落語に関する基本的な知識を紹介してきました。
まとめると落語とは、
・長年継承されてきた完成度の高い噺を、
・落語家の名人芸を通じて楽しむものであり、
・さらに、新たな演目が日々誕生している
という演芸であり、非常に質の高いエンターテイメントであるといえます。
本記事で興味を持っていただけた方は、ぜひ奥深い「落語の世界」に足を踏み入れてみてください。
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おわりに
今回は、落語に関する基礎知識と、落語のおもしろさの理由について紹介しました。
これから落語を嗜んでいこうという方には、定番演目について紹介した以下の記事もおすすめです。ぜひあわせてご覧ください。